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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)9251号 判決 1987年3月26日

原告

利川相和

原告

利川須美

右両名訴訟代理人弁護士

松本勉

被告

韓秀男こと

西原秀雄

右訴訟代理人弁護士

正木孝明

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金一二〇万円及びこれに対する昭和六〇年一一月一九日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、その肩書住所地において、プラスチック成型加工業の操業を、毎日午後九時から翌日午前六時までは、一切してはならず、かつその余の時間においては、右操業により、別表(一)記載の規制基準の限度を超える騒音、振動を発生させてはならない。

三  被告は、原告らに対し、昭和六一年一二月一三日から第二項記載の操業停止及び制限が完全に履行されるに至るまで、それぞれ一か月金四万円の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ金二一二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一一月一九日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、その肩書住所地において、プラスチック成型加工業を一切してはならない。

3  被告は、原告らに対し、昭和六〇年一〇月一日から右2記載のプラスチック成型加工業の操業停止に至るまで、それぞれ一か月金一二万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは夫婦であり、その肩書住所地に三名の子供と共に居住している。

2  被告は、昭和五九年五月から、その肩書住所地の工場において、プラスチック成型加工業を行なつているものであるが、右工場内の成型機、粉砕機、クーリングタワー等から発生する騒音、振動と、かけつぱなしのラジオから発生する騒音のため、原告ら及びその家族は肉体的、精神的に多大の悪影響を被るに至つている。

3  被告の発生する騒音は、深夜、早朝、昼間を含め平均的に約七〇ホーン弱に達している。大阪府公害防止条例によれば、原告ら及び被告住所地における規制基準は別表(一)記載のとおりとされており、被告の発生する騒音、振動は、右規制基準を大幅に超過している。また、被告は生野保健所環境係から、再三再四改善指導を受けているにもかかわらず、これを無視して操業を続けている。そして、原告らの再三の抗議に対して、被告は、「こんなん我慢するのが当たり前や。」とこれを無視し、かえつて、「もつとうるさい仕事したろか。」などと原告らを脅迫した。原告らが、やむなく生野簡易裁判所に調停を申し立てたのに対し、右調停期間(昭和六〇年七月一八日から同年一一月七日まで)中も、相変わらず前記のとおり約七〇ホーンの騒音を発していた。

右のような事情であるから、被告の発生する騒音、振動は受忍限度を超過した違法なものである。

4  被告の発生する騒音、振動のために、原告利川相和(以下原告相和という)においては、慢性的な睡眠不足、めまい、不快感の症状を、原告利川須美(以下原告須美という)においては、異常出血、眼痛の症状を、それぞれきたし、このために原告須美においては、毎日眼注治療を受けている状況である。

なお、右騒音、振動により成長期にある原告らの子供達の受ける悪影響は計り知れない。

5  以上の事実によれば、原告らの被つた損害は、金銭に評価して、それぞれ一か月あたり金一二万五〇〇〇円を下らず、被告の操業開始時である昭和五九年五月から昭和六〇年九月末日までの期間分だけでも、それぞれ合計二一二万五〇〇〇円に及んでいる。

6  よつて、原告らは、被告に対し、昭和五九年五月から昭和六〇年九月末日までの期間の損害賠償請求権にもとづいて、それぞれ金二一二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一一月一九日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、差止請求権にもとづいて被告のプラスチック成型加工業の操業停止を、昭和六〇年一〇月一日以降の期間についての損害賠償請求権にもとづいて右日時から前記プラスチック成型加工業の操業停止に至るまで、それぞれ一か月あたり金一二万五〇〇〇円の割合による金員の支払いを請求する。

なお、仮に請求の趣旨2記載の請求が一部しか認められない場合には、「被告は、その肩書住所地において、プラスチック成型加工業により別表(一)記載の基準を超える騒音、振動を発生させてはならない。」との限度で認容されたい。

二  請求原因に対する認否

1  同1の事実は不知。

2  同2の事実中、被告がその肩書住所地において、昭和五九年五月からプラスチック成型加工業を行なつていることは認め、その余は不知。

3  同3の事実中、原告らが生野簡易裁判所に調停を申し立てたことは認め、その余は否認する。末尾の主張は争う。

4  同4の事実はいずれも不知。

5  同5の事実は否認する。

6  同6の主張は争う。

7  被告の主張。

(一) 被告の発生する騒音は成型機、粉砕機、コンプレッサー、クーリングタワー、チェーンブロックからそれぞれ発生するものであるが、このうち粉砕機、コンプレッサーについては時々しか音を発生せず、クーリングタワーの音は特に大きくなく、問題となるのは成型機の音である。成型機からはウオーンという音と、カッチャンという衝撃音の二種類の音が発生しているが、ウオーンという音はさほど不愉快なものではない。また右衝撃音は「常時」発生しているものではなく、「常々」発生しているに過ぎない。

また、原告らが主張する騒音は、原告らの自宅と、被告の工場との境界線上で測定されたものであり、原告らが実際に被る騒音被害を測定したものではない。原告らが、自宅の窓を開放した状態では五二ないし五五ホーンであるが、窓閉じた状態では四〇ないし四二ホーンに過ぎず、規制値以下である。

被告は、昭和六〇年八月二六日に機械を騒音の少ないものに取り替え、コンプレッサーの位置を変えている。

このような事実によれば、原告らにおいて、窓を閉めれば受忍限度を超えるものではないというべきである。

(二) 原告らの主張する振動は、原告らの自宅と、被告の工場との境界線上で測定したもので、また、右境界線上での測定値も規制基準を大幅に超えないから、原告らの実際に被る振動被害は、受忍限度を超えるものではないというべきである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一まず、被告の原告らに対する、騒音、振動による法益侵害の内容、程度について検討する。

1  〈証拠〉によれば、以下の事実が認められ、被告本人尋問の結果中この認定に反する部分は右各証拠に照らして措信しがたく、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告らは昭和五五年三月から、その肩書住所地に居住しており、被告はこれに隣接するその肩書住所地に昭和五一年頃から居住しているもので、両住所地及び各居住建物等の位置関係は、別紙図面(一)記載のとおりである。

(二)  被告は、原告ら居住開始後の昭和五九年五月からその肩書住所地被告宅の鉄工作業場を拡張して工場となし、そこで新たにプラスチック成型加工業を始めた。被告の作業の内容の概要は、加熱したプラスチック樹脂を成型機により射出成型して製品とするために、成型機二台の外、成型加工に使用するランナーを粉砕する粉砕機、成型機の金型の交換等に使用するチェーンブロック、掃除等に使用するコンプレッサー、及び冷却用のクーリングタワーを稼働させるものである(以下これらを以下本件各機械という)。

本件各機械を稼働させることにより後に認定するような騒音、振動が発生するに至つた。

(三)  本件各機械から発生する騒音には、①成型機が製品を成型するときに発生するガチャガチャガッタンないしガッチャンというような衝撃音、②粉砕機が作動するときに発生するバリバリガチャガチャというような音、③その他、成型機の油圧装置の作動音、クーリングタワーの作動音、その他の機械の作動音及び被告が作業中につけつぱなしにしているラジオの音等が一体となつた音があるが、その継続時間及び音量等は、以下のとおりである。

右①の音は約一五ないし二〇秒毎に発生する断続的な音で、被告が作業を継続する間一貫して発生しているが、その音量は原告らの自宅と被告の工場との境界線上ないし原告らの自宅の二階の窓を開放したまま室内で測定した数値で約六〇ないし七一ホン、右②の音は一日に三回程各回三〇分間位で被告がランナーをまとめて処理する際に発生する音で、その音量は右同場所で測定した数値で約六六ないし七四ホン、右③の音は被告が作業を継続する間一貫して発生する音で、その音量は右同場所で測定した数値で約四八ないし六三ホン(ただし、その大部分は、五〇ないし五四ホン程度)である。測定位置は、およそ別紙図面(一)ないし記載の位置で、別表(三)の「測定場所」欄記載の場所である。そして、若干の違いはあつても、作業が継続されている間は大体このような騒音、振動が発生してきており、昭和五九年五月以来、時期あるいは時刻により顕著な変動は見られず、また、後記認定の被告の対策が採られた前後にわたり実質的な変動はなかつた。

(四)  また、本件各機械から発生する振動は、④成型機が製品を成型するときに発生するドスーンという突き上げるような振動と、⑤その他の機械か渾然一体となつて発生する振動とがあり、右④の振動は右①の騒音と同時に発生し、別紙図面(一)の位置で測定した数値で約五六ないし六二デシベルである(右⑤の振動はこれより小さく、別個に測定されていない)。

以上、騒音、振動の測定結果は別表(三)記載のとおりである。

(五)  被告の作業時間は、昭和五九年五月にプラスチック成型加工業を始めた当初は日中に限られていたが、被告は同月末頃から人手を雇つて徹夜作業を開始した。その後は、日曜日を除いて連日作業が継続されており(ただし、日曜日も月に一回程度は作業している)、徹夜の回数は一か月あたり約二五、六回に達している。

二次に右騒音・振動が受忍限度を超える違法なものであるか否かについて判断する。

〈証拠〉によれば、以下の事実が認められ、被告本人尋問の結果中、この認定に反する部分は右各証拠に照らして措信しえず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告、被告らの居住する各肩書住所地付近は、もともと住宅地の中に縫製工場や、原告らの営む金型加工場、被告のもと営んでいた鉄工場等が混在する地域(以下本件地域という)であり、右各工場はそれほどの騒音を発生させておらず、ほとんど深夜作業をしておらず、全体として比較的静穏な地域であつた。また昭和五一年に被告がその肩書住所地に移転する前に、そこで、小林某が被告と同様にプラスチック成型加工業を営んでいたが、その工場から発生する騒音、振動が原因で近隣とトラブルを生じ、結局本件地域からの移転を余儀なくされており、外にこの地域でプラスチック成型加工業を営むものは皆無であり、その外に原告らを含む本件地域の住民が苦情を申し立てるような騒音の発生したことはなかつた。

2  本件地域は、騒音規制法四条、振動規制法四条、大阪府公害防止条例二二条一項、同施行規則七条の適用において、工場等からの騒音に関して第二種区域、同じく振動に関して第一種地域とされており、その結果工場等から騒音、振動を発生させる者は、別表(一)記載の規制基準を順守しなければならないこととされている。

いま、これを前記認定の騒音、振動に当てはめてみると、騒音のうち前記①のガチャガチャガッタンないしガッチャンという衝撃音は、恒常的に右規制基準を超過し、前記②のバリバリガチャガチャという音も、発生する限り常に右規制基準を大幅に超過し、前記③の音は、音量により異なるが、大部分の騒音は日中午前八時から午後六時の間を除いて右規制基準を超過する。また、振動のうち前記④のドスーンという振動は、最大限度の振動が発生する場合は常に右規制基準を超過し、通常のものも午後九時から翌日午前六時までの間は右規制基準を超過する。

3  被告が発生させる騒音、振動が前記のとおり規制基準を超過しているため生野保健所は、別表(二)措置一覧表記載のとおり、昭和五九年一二月二〇日から昭和六一年八月九日にかけて、被告に対して改善の指示を繰り返し、その回数たるや実に一四回にまで及ぶに至つたが、被告は後記認定のとおり若干の対策を講じただけで、発生する騒音・振動は前記認定のとおり実質的に低減しなかつた。そして生野保健所は、被告に対して、昭和六一年八月以降の段階においては、大阪市公害防止設備資金融資により防音対策を行なうよう指導しているが、被告はこれに消極的な意向を示し、結局右融資による防音対策はいまだ実施されていない。

4  被告の発生する前記騒音、振動により原告らの自宅においては、右騒音、振動が直接体感されるほか、原告らは家のきしみ、ふすま等の家具の共振などを通じても、肉体的、精神的な影響を被つており、その結果、原告相和においては、深夜多数回にわたり睡眠が断続され、睡眠不足、心悸亢進、精神の緊張等をきたしている。同原告は自宅において、相当の精度を要求される金型加工業を営んでいるが、右種々の影響のためその仕事にも支障がでている。原告須美においては、昭和五九年五月末から、右騒音・振動等による睡眠不足に悩まされ、同年六月一五日頃まで卵巣機能不全症、子宮不整出血の症状を、昭和六〇年六月一〇日から同年七月まで、さらに昭和六一年一月六日から同年二月一三日までは左眼漿液性虹彩炎の症状をそれぞれきたすに至つた。ただし、右各症状はいずれも現在はおさまつている。その外原告らの家族にも、進学年令の子供が自宅で勉強することができない、病気にかかつても安静にしていられないなどの影響が現れている。

5  原告ら宅は、木造二階建の居宅兼作業場の建物であるが、原告ら家族は、付近一帯に充満している前記騒音、振動を軽減し、睡眠を確保するために、夏季でも夜間は被告工場方向のみならず全周囲の窓を締め切つて生活することを余儀なくされている。

6  原告らは、被告がプラスチック成型加工業を開始するにあたつて前記のような被害を未然に防止するため、被告側に深夜作業をしないよう要望していたが、これに対し、被告は深夜作業はしない旨答えていた。その後被告が前記のような騒音、振動を発生させ、深夜作業も始めるに至つたため、原告らはプラスチック成型加工業を続けるのであれば改善して欲しい旨要求し、その結果、昭和五九年五月頃原告らと被告との間で、原告らの自宅と被告の工場との間の路地を掘つてクッションを入れ振動を減らし、クーリングタワーを移動させる旨の約束が成立した。しかし、被告は右の約束を履行せず、かえつて被告及び被告に資金的な援助をしている谷本某らは、原告相和に対して「おまえ、わがままなこというな。おまえとこの仕事止めたろうか。」「もつとうるさいプレス入れて、もつとうるさい仕事してやろか。」等の発言をして、原告らの騒音、振動の改善要求に圧力をかけた。その後も被告は、原告らに対して再度改善を約束したこともあつたが、「いつ今するというたか。文句があるなら公害で訴えろ。」などと開き直つて、ついに右約束を実行しなかつた。昭和六〇年に原告らは、騒音、振動の改善を求めて生野簡易裁判所に調停を申し立て、同年七月一八日の第一回調停期日において、調停中の暫定的な措置として、被告は午後八時以降は被告工場の窓と扉を閉め、ラジオの音を絞る、クーリングタワーを新しい物に買い替えるとの措置をとることで合意をみたが、被告は、これらをいずれも履行しなかつたばかりか、右合意に反するとの原告らからの指摘に対して、被告は、「そんなことできない。そんなこと約束した覚えはない。弁護士みたいな汚いものを使つてこんなことして。金が欲しいんか。一円欲しいんか。一〇円欲しいんか。それとも御縁があるように五円欲しいんか。」などとこれを罵倒した。しかも、同年一一月七日に予定されていた調停期日には、被告は無断で欠席し、当日原告ら代理人や調停委員から電話で出席を求められたのに対し、「日を間違ごうた。」「もう、仕事をやめる。得意先にも断りに回つて

別表(三)

測定日時

測定結果

排出基準との対比

測定場所

備考

振動

衝撃音

機械音

59.10.29

52~54

東側敷地

境界線上

現場測定

59.11.19

20:00

52~54.5

59.12.20

14:00

57~58

60.4.15

20:45

60

自動測定

65

南側敷地

境界線上

21:54

60

東側敷地

境界線上

65

南側敷地

境界線上

23:44

60

東側敷地

境界線上

65

南側敷地

境界線上

60.4.16

0:40

60

東側敷地

境界線上

1:00

62

60.6.17

21:15

60

52

南側敷地

境界線上

現場測定

60.9.9

10:00

53

東側敷地

境界線上

現場測定

10:15

56

利川宅2階

北側窓開放

10:20

44

北側窓閉鎖

10:25

55

52

西側窓開放

10:30

42

40

西側窓閉鎖

21:05

68

56~58

西側窓開放

自動測定

60.9.14

19:05

70

58~62

22:42

70

56~62

60.9.17

4:37

65~70

51~57

60.9.18

21:37

70

60~63

60.9.19

21:07

70

59~63

60.9.22

22:10

70

56~60

60.9.27

21:17

69

52~59

利川宅2階

西側窓開放

自動測定

21:33

69

52~59

61.1.31

15:25

57

東側敷地

境界線上

現場測定

20:30

57

21:00

57

61.2.15

22:00

64

53~59

利川宅2階

西側窓開放

自動測定

61.2.19

4:31

60

48~50

4:45

37~38

利川宅2階

西側窓閉鎖

61.2.20

10:30

55

東側敷地

境界線上

現場測定

57~61

50~54

14:40

65~66

工場内

成型機直近

61.2.21

1:40

55

48~52

利川宅2階

西側窓開放

自動測定

61.2.21

11:00

56

東側敷地

境界線上

現場測定

12:13

56

自動測定

13:32

66

利川宅2階

西側窓開放

(粉砕機)

14:08

56

東側敷地

境界線上

自動測定

15:53

56~57

現場測定

16:05

56

自動測定

21:10

56

23:55

56

61.2.22

0:05

58

50~53

利川宅2階

西側窓開放

61.2.25

8:00

59

東側敷地

境界線上

10:07

65

利川宅2階

西側窓開放

20:18

59

50~52

21:00

53

49~50

利川宅2階

西側窓開放

自動測定

59

東側敷地

境界線上

22:05

59

61.2.26

1:25

59

3:25

59

21:09

57

50~52

利川宅2階

西側窓開放

23:01

56

50~52

61.5.31

10:00

60

インジェクション直近

現場測定

75

70

10:15

49

東側敷地

境界線上

55

51

61.7.5

18:47

69

57~62

利川宅2階

西側窓開放

自動測定

61.7.8

12:32

71

57~61

利川宅2階

西側窓開放

自動測定

61.7.10

15:39

74

(粉砕機)

61.7.29

19:30

70

東側敷地

境界線上

現場測定

19:40

65

南側敷地

境界線上

いるし、機械もだしかけている。」などと答えて、出席しようとはしなかつた。このため調停は必要がなくなつたとして続行しないこととされたが、被告はその後も依然としてプラスチック成型加工業の操業を継続していた。その後、被告は、その妻を通じて、もうプラスチック成型加工業を止めるから調停を取り下げてくれるよう求め、原告らもその用意をしたが、被告は、前同様にこれを実行しなかつた。その結果原告らは本訴提起を余儀なくされた。

7  被告の発生する前記騒音、振動は、原告らのみならず、近隣住民にも影響を及ぼしており、隣接して居住する大林政男、下向あさ子、重松新也も苦情を申し立てている。

8  被告は、調停期間中に、改善策として、成型機一台を買い替え、成型機、コンプレッサー、粉砕機の位置を別紙図面(二)記載の位置から同(三)記載の位置へ移動させ、夜間に粉砕機を使用するのを中止した。しかし、これによつても騒音、振動の測定値に影響のでるような変化が生じなかつたことは前記認定のとおりである。

三差止請求について

以上の事実を総合勘案して判断するに、差止請求については、原告らの受忍すべき騒音、振動の限度は、前記のとおり行政的規制である別表(一)記載の規制基準を超えないものというべきである。そして、現在被告の発生している騒音、振動は、前記のとおりすでに右規制基準を上回つている。

また、以上認定の事実によると、原告らの健康被害の原因は専ら被告の夜間操業による騒音、振動にあると認められる。

それ故、原告らは、被告に対し、右規制基準の時間区分の深夜に相当する午後九時から翌日の午前六時までは、操業の全面差止めを、その余の時間については、右規制基準を超える騒音、振動を生ずる操業の差止めを求める権利を有するものというべきである。

仮に、被告本人尋問の結果中の、徹夜操業をしなければ、経営が成り立たない旨の供述のとおりであるとしても、以上認定の事実に照らして考えると、相隣関係における互譲の精神からいつて、右の程度の操業制限はやむをえないものといわなければならない。

四過去の損害賠償請求について

原告らは、過去の損害賠償請求として、口頭弁論終結時に至るまでの全損害について賠償を請求しているものと解されるところ、以上の認定事実を総合勘案すれば、その損害額は原告ひとりあたり、金一二〇万円とするのが相当である。

五将来の損害賠償請求について

以上の認定事実によれば、近い将来において、被告が工場を移転し、あるいは防音防振対策をとる等のことは予見されず、したがつて原告らの被害の発生の継続が高度の蓋然性をもつて予想され、一方原告らの被害は重大なもので、また紛争の全経過に照らし被告が右被害の継続する間任意に賠償金を支払うことは到底期待できないので、原告らにはあらかじめ将来の損害賠償を請求する利益があるものといわなければならない。

そして、原告らは口頭弁論終結の日の翌日から、前記操業停止及び制限に至るまでの期間は、これを請求することができるといわなければならない。以上認定の事実によると、その期間中の損害額は少なくとも原告ひとりあたり一か月あたり金四万円を下らないものと認められる。

六以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、差止請求については、被告の肩書住所地において、プラスチック成型加工業の操業を、毎日午後九時から翌日午前六時まで一切しないこと、及びその余の時間においては、この操業により、別表(一)記載の規制基準の限度を超える騒音、振動を発生させないことを求める限度で、過去の損害賠償請求については、原告ひとりあたり金一二〇万円及びこれに対する昭和六〇年一一月一九日から支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、将来の損害賠償請求については、昭和六一年一二月一三日から右操業停止及び制限が履行されるに至るまで、原告ひとりあたり一か月金四万円の割合による金員の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから、これらを認容し、その余は理由がないから、これらをいずれも棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官東孝行 裁判官松永眞明 裁判官夏目明德)

別紙(一)

規制基準

時間

騒音

振動

午前六時~午前八時

五〇ホン(A)

六〇dB

午前八時~午後六時

五五ホン(A)

午後六時~午後九時

五〇ホン(A)

午後九時~翌日午前六時

四五ホン(A)

五五dB

測定方法

原告被告双方の建物の敷地境界部分(別紙図面(一)①②③④を結ぶ線)の任意の地点に於いて測定するものとし、具体的測定にあたっては大阪府公害防止条例施行規則による。

別紙別表(二)〈省略〉

図面(一)〜(三)〈省略〉

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